NEWS

■昭和ノスタルジー マツダクーペ編2

2007年07月29日

先ほどのお客様から電話・・・・

受話器の向こうから、甲高い声が聞こえます。
「えっ、ブレーキが・・」。
今出て行ったばかりのマツダクーペのお客さまだと
すぐ分かりました。
「おい、ブレーキが利かなくなったとよ。行くぞ」
先輩が私に一瞥をくれる。

緊急事態が発生したことは確かなようです。
幸いというか、場所は会社を出てすぐの交差点。

夜の静寂が、秋の交差点を別世界のようにし、冷たい風の中に、
車がポツンと白く、浮いたように止まっていました。
行き交う車が途絶(とだ)え、時間が切り取られたように、
無表情な空間を作っています。

日に日に増殖していく車社会にあって、まるで奇跡を
見るような気がしました。
今は遠くなった田舎のエポックが助けてくれたのでしょうか。

先輩が運転席に座り、ブレーキペタルを確かめます。 
「おい、押せ。会社へ持っていくぞ」
先輩がハンドルを握り、三、四人で大慌てで後ろから押して、
小走りに工場に入れ、ブレーキドラムを外しました。

お客様も一緒に小走りに戻り、息を切らしています。
タイヤを外し、ドラムを開(あ)けると、なんとドラムの中に、
黄色いボンドが飛び散り、
ブレーキシューが、あらぬ方向にあります。

「すいません。よく確かめなかったもんで」
先輩が手際よく、ブレーキシューをアッセンで
換えながら言いました。

お客さんは先輩の修理工としての腕を信じ、
人間性も信頼していたようで、
大変な惨事、大事故になりかねないトラブルを、
不問の如く笑って見逃してくれました。

内心は驚きもし、怒りもしていたと思うのですが、
他の先輩や私は本当に申し訳なjく、
必死で謝り続けていたのです。

「いやー、びっくりしたよ。ブレーキを踏むとスーッといったからの」
お客さんは、「おいおい頼むぞ」の
気持ちを笑って伝えてくれました。

お客さまを見送った後、皆でぶるぶると体を震わせました。
晩秋の寒気が容赦なく充満し、
もうすぐ冬であることを告げています。
先輩方も大緊張の中にあったのです。

一歩間違えれば大惨事になり、
私の人生も変わっていたかもしれません。

以来、年月を半世紀近く越え、私はブレーキシューを
ボンドで張る時は、
絶対に暖めてはならないと肝に銘じているのである。

惜しむらく、だが今や、ブレーキシューを張り付ける
時代ではなくなっている。
失地回復する機会もなく、私の習得した技術は、苦い悔恨と
少しばかりの冷や汗となって、
脳裏の片隅に閉じ込められたのである。


さて、これから時代を変遷した物語をお載せしょうと思う。
あの頃は、悪いセールスが多かった?否(いや)愛すべき個性派?
乞う、ご期待とお願いしておきたい。
株式会社フクジュに輸入車の新車・中古車
販売・サービス、その他の事も
お任せ下さい
伏見谷 徳磨

この記事へのコメント

名前
メール
URL
コメント


   画像に表示されている文字を半角英数で入力してください。