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■一枚の絵

2008年06月07日

今年はオリンピックの年である。
経済の発展の凄まじい中国が、
当(まさ)に国威を賭けて催す一大イベントである。
途上国の少し危うい面も残しながら、
国威が懸かっているから強引でもある。

聖火リレーでは、ヨーロッパ各地でのトラブルが目立ち、
チベットの問題も表面化した。
世界各地の留学生の団結や熱気が赤い旗に揺らめき、
台頭国家のナショナリズムを感じさせられた。

色々な問題を含み、多難なことも間違いのないところだろうが、
胡錦涛主席の来日、帰国後、
5月12日に大地震が発生したことには正直ビックリした。

マグニチュード7、8という、阪神大震災を上回る規模だという。
早速被害状況が刻々移り変わる。
阪神大震災の死者は6千人以上だったが、
こちらは翌日13日には既に1万人を越えている。
この少し前にはミャンマーでサイクロンによる大被害が勃発している。

ミャンマーの被害も膨大で、10万人以上とも言い、
こちらも救済はこれからだ。全く懸かる大被害に軍事政権は
世界各国からの人的支援を拒んでいるという。

まあ古今東西、歴史は権力者の自己保身を暴いているが、
それにしても最近の自然災害は少しおかしい。
アメリカでは竜巻の大被害である。

昔から人類の歴史は自然との調和を目指す戦いの明け暮れでもあった。
日常的に人々は自然災害に悩まされ、
故に畏怖と尊厳の念を強くし、神を知った。

最近、自然の逆襲という言葉を良く聴き、目にする。
地球の温暖化は最早致命的といってもいい。
なのに経済至上主義に捉われた人類は聴く耳を貸そうとしない。

バブルのピークが実は滅びの予兆だった。
世界で随分格差はあるが、先進国の発展は当に頂点を極めた。
まだまだ発展、儲けなければの思いも、思惑通りになるやらどうやら。

やはり程々が必要だろう。節度を忘れた一方通行は必ず反動がある。
北極も南極も氷が溶け出したというのに、
人類は余りにも欲深で自然への感謝を忘れた。

白熊が氷の上での餌(アザラシ)を獲れなくなり、海で溺れ死ぬという。
人類もこのようにならなければと願うばかりである。

そういう愚にもつかぬ事をぼんやり思わせる、矢継早の災害だった。
そして目の先に1枚の絵があった。ぼんやりモノトーンに近い絵である。

昔、シトロエンCXパラスという車に乗っていたお客から貰った絵である。
船乗りをしていて、ヨーロッパに憧れ、パリジェンヌに憧れ、
そして自らはパリジャンになれなかった人である。

CXパラスについては次回に書かせて貰うが、
2400CCの排気量の大型車だった。
パリジャンが洒落て乗るには中々的を得た車である。

僕が知り合った頃は遠い船乗り時代の話を懐かしむ初老の人だった。
30年以上前である。もう既にこの世にいるかどうか?
話がとても面白く、まるで僕達は年代こそ違え、
ずっと昔からの知り合いのような感覚で、
あちこちの喫茶店でお茶を楽しんだ。

30年以上昔に、地方でCXパラスに乗る人である。
口ひげを蓄えとてもお洒落な人だった。色々な会話を楽しみながら、
僕達には幾つもの共通のセンサーがあることに気付いていた。

その一つは勿論車である。車そのものであり、
あちこちを走り回ることであり、風景であり、人や喫茶店、雑誌や音楽と、
要するに何でも雑多に、時々の気紛れで没頭できるものであった。

2、3年かもう少しだろうか。いつまでもシトロエンCXパラスでもなくなる。
シトロエンの代名詞のハイドロマスターが不調になったり、
エンジンの調子が悪くなったりと、色々現実の問題が厄介に
身の回りを取り囲んでくるようになる。

自動車屋とお客の、新鮮で興味深い時間を共有しながら、
修理代が溜まっていった。色々な会話や出会いの中で、
この人の夢は今も色褪せていないが、
その分お金の方にはあまり恵まれていないことに気付かされていた。

人生の最後の色々な思い出をCXパラスで飾りたかったのだろうか。
昔の船乗り時代を楽しそうに語り、パリジェンヌとの恋を語り、
フランス語を聞かせてくれた。

そろそろ修理代の話を詰めなければならない。
そんな時この絵を貰ったのだ。「随分楽しかったよ。
でもそろそろやめるよ。修理代の代わりにこの絵を貰ってくれる?」
 
斯(か)くして、口ひげのマドロスが午後の寂れた港で
網を繕う絵が我が物となった。網が手元にあるから漁師かとも思うが、
マドロス帽を被り、Tシャツ、ズボンはマドロスである。

改めてみると、この絵の主人公がまさしくあのお客そのものだった。
全体にモノトーンの印象が、人生そのものの背景となっている。

まだしっかりした体格をしているが、
壮年を越えつつある事は間違いないだろう。
ヨットらしき船が二隻後ろに描かれ、
船小屋のような所にでも座っているのだろうか。
静寂というより、寂寥(せきりょう)である。
人生の黄昏(たそがれ)が忍び寄っている。

大事にしていてもあちこち痛んだCXパラスを貰い、
絵も貰って清算となった。そしてその人とはそれっきり疎遠となった。

「客船の客室に飾ってあった絵なんだ。
この絵が好きでね。でも君に上げるよ」
いい格好をして、夢を追ってはいたが、潮時が来たのを知ったのだろうか。

その絵は綺麗に、丁寧に梱包してあった。
それまで家で飾っていたのだという。
「僕の人生を上げるんだ。最後に包装したんだ」

生憎(あいにく)、絵に含蓄がない僕は梱包のままにしていたので、
その絵は30年前と変わらず残り、
ふと気付いてリビングに飾ったのはついこの前だった。

中国、チベット、ミャンマー、アメリカ・・・、石油、食糧・・。温暖化、異常気象。
混沌とは無縁の静かな絵が、逆に遠い昔を濃密に思い出させ蘇らせる。

そういえばあのお客の家族構成とか、
その有り様とかに全然至っていないことに気付いた。
奥さんがいたのだろうか?若い女性を見たが、
奥さんという感じでもなかった。

どうあれ、この絵を僕に渡すとき(シトロエンCXパラスの修理代として)、
あのお客がそれまでの人生の思い出と決別したことは間違いなさそうだった。

今月中にカメラで撮って掲載しますが、皆さまの感想は如何でしょうか。
この絵に人生がこもっていますか?何の変哲もなき絵ですか?
斯様(かよう)に思い込み次第で、全てが成り立っているのでしょうか。

全く唐突に無関係に、僕は遠いお客様とシトロエンを思い出したのでした。


伏見谷 徳磨


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